酒造りのこだわり

綿屋の醸し方


土から考える酒づくり、大きな冷蔵庫で熟成まで時間をかけて管理して出荷する、独自の酒質の追求。
日本酒の伝統的な製法に、この蔵ならではのこだわりを加え、『綿屋』が出来上がる。

米

ほかでもない。

『綿屋』のための米を求めて

先代から蔵を受け継ぎ、蔵元は本気で純米酒に取り組んでみようと思った。純米、すなわち、米だ。米に向き合わなければ、自分の理想の酒に至ることはできない。 米をもっと知りたい。納得のいく米へと辿り着く術を探り、手を尽くした結果、出会ったのが阿波山田錦。阿波、つまり徳島である。

「酒の米といえば、やはり山田錦。これは、今現在も変わらないですね。もちろんいろいろな米に良さや個性はありますが、究極はあくまで山田錦です。 縁あって徳島を訪ねることができ、つぶさに見て、学ぶようになりました。 そこには当時、山田錦の生き字引と言うべき故・永谷正治先生もいらっしゃいまして、多くのアドバイスをいただきましたし、わからないこと、納得が行かないことを事細かに教えていただきました」

宮城から徳島へ、片道10時間。遠路通い詰める日々が続き、カラダで米を学んだ。カラダで学んだというのは、文字通りで、蔵元自らが田植えをし、真夏も草刈りをし、刈り入れまですべてのプロセスにかかわった。 最高の酒米、山田錦を身を持って知ることができた。

「最高を学んだことで、米には揺るがない自信を持つことが出来ました。この阿波山田錦は、今でもずっと契約栽培をしてもらっています。『綿屋』の米の標準として、変わらぬ大きな柱となっています」

米は自然のもの。もちろん作柄の悪い年もある。綿屋はリスク回避の意味からも、各地の農家さんと契約し米をつくってもらっている。前述の一連の体験を経て米に自信を深めた蔵元が、自らが「ここはいい」と感じた米を選び、契約栽培する。 それぞれの米を『綿屋』の技術で磨き、多彩な日本酒に結晶させる喜びがそこにある。

「農家さんと真剣勝負です。『綿屋』がつくるのだから、それ相応の米をつくって欲しい。いろいろ意見も言わせていただきます。偉そうなことも言いますから、その分高く買いますし、 こちらも全身全霊かけて仕込みます。言い訳はできません」  美山錦は、長野県産を使う。品質の高さもさることながら、精米にまでこだわっているのが特徴だ。ご飯になる米とは比べ物にならないくらい削るのが酒米。 ゆえに、精米の重要性は極めて高い。プライドを持ち、高い技術を誇る職人が精米し、『綿屋』へ届けると言う。

この他にも岡山産雄町、広島産八反といった銘柄が使われる。また蔵元は、地元の米をぜひいい酒にしたいという思いも強い。 山田錦、蔵の華、トヨニシキ、そして宮城の米の代表であるひとめぼれなど、地元でつくられたものを積極的に醸している。

「宮城県は米どころですから、優れた農家さんもたくさんいます。彼らと切磋琢磨しながら、やっています。他の産地同様高い要求もしますけれど、それに答えてくれる探究心をひしひしと感じる。 この地で、ともにつくる喜びはまた一入なのです」

結果、蔵の大きさに比して多くの銘柄が生まれてくることになる。農家さんの名前をラベルに冠した酒が次々と誕生し、高い評価を得ている。

「さまざまな米と出会い 、人と出会ってきた。これからもそうでしょうし、その部分でも酒づくりは面白いものだと思います」

水

小僧山水。尽きない銘水を得て

『綿屋』は磨かれる

「蔵にとって、水は”いのち”のようなものだと思います」

『綿屋』の社名は金の井酒造と言う。創業当時金田村が地名だったこと、そして水が素晴らしいかったから 「井」が付けられた。

ところが蔵元が蔵を受け継いでまもなく、その”いのち”が枯れかかることがあった。近くに農業用水の用水路が通ったために、集落の井戸が使えなくなったのだ。

この一大事、しかし『綿屋』にとって幸いすることになった。新たに小僧山水が集落の水道水として供給されることに決まったからだ。小僧山水。蔵からほど近い深山から昏々と湧く宝の泉には、大手酒飲料メーカーも着目し、採用すべく調査がなされたとのこと。落差7メートルの小僧不動の滝では、まさに酒の仕込みの極寒の候、みそぎの神事が毎年行われている。名実ともに、銘水としてこの地を潤している。

これまでも水には恵まれていた。小僧山水も汲んできて仕込みには使っていた。それがこれを境に、洗米の段階から、量を気にせずに使えるようになったのだ。 これが西暦2000年。21世紀直前の、嬉しいニュースとなった。

精米された米は、まず洗う。このとき、米は水を吸うが、足りない分はさらに適量吸わせる(限定吸水)。目指す酒質に応じて適切な吸水率(おおむね30~35%)があり、繊細な管理が求められる。吸い過ぎると蒸した時にやわらかくなり過ぎるし、足りなければ逆に芯が残る。当然、酒の出来を左右する。その点、この上ない水を吸わせられるのが『綿屋』の強み。 洗米から銘水と呼ばれる水をふんだんに使える蔵は、日本中を見渡してもそうはない。

水の質を表す基準に、硬度がある。硬度はミネラル分が多いか少ないかを表す数値で、多い水を硬水、少ない水を軟水と分類する。 日本の場合は多くが軟水で、酒造りにおいてはゆっくりと発酵させる特徴がある。

ところが小僧山水は中軟水で、軟水に比べると水の力が強く、発酵を旺盛に進める。通常であれば濃潤な味になり、ともすれば重く仕上がりがちであるが、 『綿屋』にとってはこの性質が大きく幸いする。

「宮城の一番北ですから、蔵のある栗原はとても寒い。普通ですと発酵が止まってしまう気温になります。しかし小僧山水の力が強いので、発酵がスムーズに進みます。 それが『綿屋』ならではの酒質に結びつくのです」

小僧山水の力のおかげで、微生物に無理な仕事をさせることなく、この環境の中でベストなお酒づくりを目指す事ができる。 蔵元は、そのことを心から感謝している。米や醸造技術は努力で向上させる余地が多くあるが、水はやはり天与のもの。 そういう意味でも、蔵にとってはまさに”いのち”に他ならない。

麹

酒質を求めるために、

難しい菌、厳しい道程を選ぶ

酒づくりは「一麹・二酛・三造り」と言われる。

この言によれば、一番重要とされる麹づくり。蒸し米に麹菌を繁殖させるこのプロセスで期待されるのは、さまざまな酵素の働きによって米を糖化すること。ここでも蔵元の化学的な学識に基づく発想が、大いに発揮される。

「『綿屋』の目指す酒づくり、麹の特徴と言うと、通常より温度を高く上げて培養すること。早めに43度まで上げなくては、アミノ酸が多く雑味の多い酒が出来てしまう。 当然、納得いくものが仕上がらないのです」

そして最高温度(43度~45度)を保つ。これが、なかなか難しいことなのだと言う。

「私が選んで『綿屋』にとってベストと思われる吟醸用麹菌を採用しています。ちょっと専門的になりますが、この菌の特徴は酵素力価が高いこと。強い糖化力を目指して使っています。 それを上手に操り、高い湿度にするために、よりハイレベルな技術が必要とされます。夜の作業も避けられません。手をかけずにそこで醸ってしまっては『綿屋』のキレイな酸が出てこないのです」

麹

扱いが難しく、しかし素晴らしい麹菌の働きで、夜中に最高の温度帯を迎える。ということは当然、蔵人たちの夜の負担は大きくなる。いつでも起きられるよう、蔵に泊まり込んで臨まなくてはならない。 昔ながらの、変わらない重労働だ。

「もちろん簡単な機械は入れていますが、任せっきりというわけにはいかないのです」

温度の上がり過ぎを抑制する設備は整えている。が、そこは生き物相手。繊細だからこそ、万全の管理が必要で、人も手を抜くことが出来ない。

およそ丸2日。いい麹は栗の匂いを放つと言われる通り、取り出された麹からは、ほのかな甘い香り。次は酵母という母に、委ねることになる。